一、「あんたがなんぼのもんや」とつい口走ってしまった
私は、当初、一部上場企業の某電気メ―カ―の一社員でした。
会社は、給料や福利厚生の部分でも非常に恵まれており、仕事もある程度権限を与えられ
伸々と仕事ができる環境にありました。別に、これと言って不満な点等はなく、これまで
私を、このように教育していただいた会社には、常日頃感謝しておりました。
そんな、自分がこの会社を辞めてしまったのは、ちょっとした事がきっかけでした。
ある担当者が、協力企業の社長さんに対して、無茶苦茶な事を言っているのです。
その社長さんは、ただただ下をうつむき「その通りです。すいません、すいません。」と
何度も謝っているのです。はじめ、私は、何か仕事上でのミスがあったのかなと思いあま
り気に止めもしなかったのですが、声はどんどん大きくなるし、聞かないようにしていて
も聞こえてくる。こういう人間がいるんですよね。ここぞとばかりに、俺は偉いんだと、
まわりに見せつけるような奴が、困ったもんだ………。隣にいた同僚に「おい、何が問題
なの?」と聞くと、一部始終を見ていた同僚が、「確かに、社長さんところが、勘違いで
納期を間違えたけれど、うちのほうにも非はあるよ………。」といろいろ説明してくれた。
担当者と社長さんのやり取りを聞いていると、「おまえのような会社は、はいてすてる
程たくさんあるんだ」との科白。
社長は、我慢しながら謝り続けていました。
おい、ちょっと待てよ。という気になってしまい、よっぽど言ってやろうかと思って席
を立とうとした時、同僚が腕を引っぱり「おい、やめとけ、相手は課長だぞ。」と言って
引き留めるのです。テレビや映画の世界では、ここらでやりあうところなのでしょうが、
悲しいかな、現実はただのサラリ―マンです。我慢して聞いてました。聞けば聞くほどム
カムカして腹がたってくる。「社長さんがこんなに謝っているじゃないか。」「おまえは、
そんなに偉いのか?」「おまえは、ただ会社の看板を盾に言っているだけじゃないか。」
「リストラで首を切られたらただのおっさんじゃないか、今は肩書きがあるかもしれない
が、外に出たらそこらの飲み屋のおやじさんよりも劣るんだぞ、そこんとこ、わっかっと
んのか」と思いながら、
「おまえがなんぼのもんや」とボソッと吐き捨てるように口走り、その部屋を出て、コ―
ヒ―でも飲みに行って気分でも落ち着けようと思ったが、ムカムカとモヤモヤは、どうに
もおさまりませんでした。
その時にふと十年前アメリカにいた時のことを思い出しました。当時のアメリカは、大
企業においてリストラの風が吹きまくっていて、毎日のように、何千人という従業員が解
雇されるという記事が載っていました。その記事を見ながら現地のスタッフから「いずれ、
日本も終身雇用が崩れリストラの嵐がくるよ。その時、おまえは日本にいるだろうけど、
どうするんだい。」と言われたことを思いだしました。あの時に、私はいずれ独立しよう
と密かに決めていました。そうだ、これを機に独立しようと踏ん切りがつきました。
このまま、この会社に勤めてあの課長のようになるか? それとも、妥協してバカな課長
に仕えて生きていく道よりも、独立したらもっと違う道があるんじゃないか……。
その日の夜、その課の飲み会があり、あまり気が進まなかったのですが、ちょっとムシャ
クシャもしていたので行くことにしました。
人間、不思議なもので、いやだと思えばとことんいやになるもので、その飲み会での、
話題は、会社の仕事の話か、上司の悪口です。入社してから十年ちっとも変わっていない。
それを抵抗なく、自分でも言っている自分も情けない。
もっと違った話しはできないのか? なんで、こんな暗い話しになるのか? サラリ―マ
ンだからしょうがないのか? また、とことん落ち込んでしまう。
そして、次の日、一晩寝て、よし、この会社辞めようと決めてから出社したら、なんと
なく明るくなって開けた気分になりました。
しかし、今、こうやって独立していますが、最初のころは、なんで独立したんだろう、
独立なんてしなければ……。やっぱりサラリ―マンにもどろうかなと長い事思ってました。
それほど、独立して、自分の力で飯を食べていくことが大変だとは思っていませんでした。
そんな、ある日、単独で南極点に到達した冒険家の植村直己さんが、記者のインタビュ
―でこんな事を答えていました。「私は南極へ行く途中も、もどろうかな、どうしようか
なと悩んでました。南極大陸へ着いてもまだそう思っていました。そして南極点に向けて
ソリを走らせてからも、今ならまだ戻れるかな、戻ろうかな、戻ることばかり考えてまし
た。でも、とても引き返すことができないところまで来ると、そこから前へ進むことだけ
を考えるんです。」こんな偉業を成し遂げた人でも、そう思っていたのか、凡人の自分が、
そう思うのも無理はないなと、一人で笑ってしまいました。
それで、現在は、とにかく前へ進むことだけを考えられる環境と年になり、やっぱり独
立してよかったんだなと思えるようになりました。
今後、サラリ―マンの方が脱サラして独立を目指す人がいたら、こう言いたい。
「脱サラしないほうがいいんじゃないですか?苦労しますよ。何か一つを選ぶということ
は、他は、すべて捨てなければなりません。一度、全部捨てられますか?金も地位も今ま
でのはすべて全部ですよ。」
もし、それでも大丈夫、俺にはできると思われる方は頑張ってみる価値は十分あります。
そういうあなたに対してなら、これから述べる私達のささやかなメッセ―ジはお役に立
つものと確信します。
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